脳脊髄液減少症
■治療はどのように行うか
 治療は減少した脳脊髄液を増加させることです。急性期(発症1ヶ月以内)では2週間程度の臥床安静と十分な水分補給(口から摂れないようなら点滴で)でかなりの患者さんがよくなります。横になると重力による圧がとくに腰椎部にかかりにくく髄液の漏れが減少し自然にクモ膜の裂け目が修復されると考えられます慢性期や臥床安静・水分補給で改善しないときはブラッドパッチ治療を行います。ブラッドパッチ治療は髄液が漏れている部分の硬膜外腔に自分の血液を注入して漏れを修復する治療です。

 当院では原則としてブラッドパッチは入院で行い、X線テレビ室で腹臥位になり、局所麻酔下で硬膜外穿刺を行って自家血を注入します。
頚椎・胸椎は10〜15ml程度、腰椎は30〜40ml程度注入し、注入後はCTスキャンを行ってどの範囲血液が満たされてか確認します。経過の長い患者さんは数回のブラッドパッチが必要になることがあります。ブラッドパッチ後1週間くらいはできるだけ横になっているほうが好ましいといえます。立位や座位では腰椎部に重力の圧が加わり漏れやすい状態になります。

 2回目以降は初回ほど安静を厳密に保つ必要はありません。ブラッドパッチ後3日間程度は点滴を1500ml程度行い脱水の改善を行います。十分に水分が摂れていれば点滴は必ずしも必要ありません。2回目のブラッドパッチは少なくとも3ヶ月経過してから行います。3ヶ月の間に症状が改善し2回目のブラッドパッチが不必要になることがあるからです。ブラッドパッチは少ない回数で効果が挙げられればそれにこしたことはありません。ブラッドパッチは自分の血液を注入するのですが血管からでた血液は異物として処理され(血液の細胞とくに貪食細胞によって処理されます)このときに炎症を誘発する物質が放出されます。つまり炎症により血液が吸収され程よい癒着が起こって漏れがとまります。この炎症反応は個人差が強く1ヶ月くらい痛み、発熱、倦怠、吐き気で苦しまれる患者さんがおられます。3ヶ月以上症状が続いた方はごく少数です。この副作用を最小限にするためステロイド剤を加えたり、ノイロトロピンを硬膜外に注入したりしていますが効果は個人差があります。

 ブラッドパッチは家の建築では土台作りに相当します。土台だけでは家は建ちません。髄液を増やすにはそれなりの日常生活の工夫が必要です。まずは十分な水分をとることです。1日1500ml程度の水分をとることが必要です(水、茶、スポーツ飲料、アミノ酸飲料、牛乳など。最近大塚製薬から経口保水液0S−1オーエスワンが発売されました。これは特に下痢や風邪による脱水の時に効果が期待できます。もよりの薬局で入手できます。) ビールや炭酸飲料、糖分の多い飲料は避けるか少なめにしたほうが無難です。ただし普通の生活をして4リットル以上の水分を取る必要はありません。大量の水を飲むと血液の浸透圧が低下して尿量が増え結果的に脱水になる可能性もあります。適度の睡眠は髄液を産生するのに必要なようです。髄液減少症ではしばしば不眠を訴えますがこの場合は睡眠薬を用いてでも睡眠をとったほうがよいと考えます。

 現在の睡眠薬は習慣性になりにくく副作用も少ないのが多いので使用をためらう必要はありません。きちんとした食事も大切です。髄液を産生するには脳の脈絡叢の細胞の機能が活発である必要があります。栄養不足、ビタミン不足では髄液産生機能が低下することが考えられます。食後に吐き気が出たり、胃のもたれがあったり、胸焼けがしたり、咳がでるときは胃食道逆流症(逆流性食道炎)が疑われその治療を行うことが必要になります。ストレスも髄液の産生に影響します。プラス思考、楽天的に考えることは病気を治すための何よりもの薬です。ある程度改善した場合は適度な運動(ウォーキング、ジョッギング、サイクリング、スイミングなど)を行うと自律神経が調和され髄液産生によい影響を与えます。

 ブラッドパッチをはじめとして総合的に治療を行った成績は治療が終わって一年後に、ほとんど完治が2割、70%程度の改善が5割とあわせて7割くらいが満足できる結果です。残り3割は一部の症状の改善のみに留まるかまったく改善が得られないかです。この3割をどうするかが今後の課題です。


■ブラッドパッチの副作用・後遺症について
 ブラッドパッチは腰椎穿刺後の頭痛を予防する目的で麻酔科医によって始められた治療法で自己の血液を用いるため薬の副作用はありません。比較的安全な治療法ですが副作用・後遺症は皆無ではありません。血液を注入してから数日間は硬膜外が陽圧になるため注入部位に痛みは程度の差こそあれ出現します。自己の血液であっても一度血管から外に出ると異物として処理されるため炎症反応がおこります。長い方で1ヶ月くらい炎症反応が続きその間は痛み、微熱、だるさ、はきけ、食欲不振などの症状がみられます。大部分は一過性です。ごくまれに数ヶ月から1年くらい痛みが続くことがあり、交感神経が過緊張になるための痛みや慢性的な炎症が起きるためとかんがえていますが正確なことはわかりません。特に線維筋痛症の患者さんではブラッドパッチ後に症状が悪化する例が多いようです。症状悪化を予防する方法を模索しております。

 硬膜を穿刺して血液の一部が髄液に混じる可能性(クモ膜下出血)はありえますが、仮にそのようなことが起こっても後遺症に結びつく可能性は低いと思われます。クモ膜下出血の場合は注入直後から激しい頭痛と嘔吐が起こります。細菌感染がおこり硬膜外膿瘍の可能性もありますがブラッドパッチによって硬膜外膿瘍が起こった報告はないようです。ブラッドパッチを繰り返すと硬膜の癒着のため血液が入りにくくなり初回より痛みが強くなることがありますが多くは3ヶ月以内に改善します。脳脊髄液減少症の治療は数年を要することがまれではありません。症状が改善したり悪化したりを繰り返しながら改善に向かいます。長期戦を覚悟してください。


■診療の実際
 脳脊髄液減少症の専門外来は月曜日と水曜日の午後2時から5時まで及び土曜日の午前9時から12時まで行っています。(土曜日の午前は一般外来を兼ねています)。初診は月、水は各2名、土曜日は1名です。再診は1名10分の診療枠で予約をとっています。専門外来はすべて予約制で主に篠永が担当いたしますが土曜日は高梨医師、藤井医師が担当する場合があります。初診は紹介状が必要ですのでいままでに診ていただいていた医師に紹介状をお願いしてください。

 十分に時間をかけて診療を行いたいのですが、多くの患者さんを診察するためには効率よく診察を行うことも必要です。そのため受診前に予診表や経過表などまた質問事項など箇条書で書いていただけると助かります。入院に関しては外来診療の際に入院予約をいたします。検査や症状により異なりますが、通常は4−7日の入院です。

RIシステルノグラム       腰椎部での髄液漏出像
造影脳MRI:
著明な静脈拡張像
MRミエログラム           ブラッドパッチ治療前
腰椎左側での髄液漏出       
ブラッドパッチ治療後
髄液漏出像が消失


■脳脊髄液減少症治療の実績
 平成12年から平成17年12月までに脳脊髄液減少症を疑って平塚共済病院/国際医療福祉大学熱海病院を受診した患者総数1007人中、症状、MRI/RI画像診断、治療効果などから総合的に脳脊髄液減少症と診断したのは844人(83%),男性352人(年齢38.4歳)、女性488人(年齢41.7歳) 平均罹病期間6.7年   髄液圧平均12.6cm水柱

原因: 交通事故408 スポーツ48 転倒・転落62 出産29 不明293 その他4 
ブラッドパッチ平均回数2.4回
ブラッドパッチ総数2020回 (頚椎202 胸椎208 腰椎1697) 
治療成績:著明改善 211 改善347 一部の症状改善158  不変49 悪化4 観察中79
(著明改善+改善 66%)


■診療実績
●入院 平成17年7月1日〜平成17年12月31日
●入院総数 327
 脳血管障害 54
 (クモ膜下出血:4 脳梗塞:30  脳出血:11 未破裂脳動脈瘤:6
  一過性脳虚血発作:2  内頚動脈狭窄症:1)
 頭部外傷   12
 脳腫瘍     3
 脊髄・脊椎  11
 末梢神経   12
 脳脊髄液減少症 230
 その他      5
●手術 平成17年8月1日〜12月31日
●手術総数 42
 脳動脈瘤クリッピング 5  血管内手術 3  開頭脳内血腫除去 2  
 穿頭血腫除去 4  開頭硬膜下血腫除去 2  脳腫瘍摘出 1  
 頚椎前方固定 5 頚椎椎弓拡大 1  胸郭出口症候群手術(前斜角筋離断術) 8
 梨状筋症候群手術(梨状筋離断術) 2  脊髄硬膜外電気刺激治療 8  その他 1
●脳神経外科スタッフ(篠永正道 高梨吉裕 原田俊一)
※国際医療福祉大学熱海病院脳神経外科ではスタッフを募集しています。年齢、経験は特に問いません。
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