診療科のご案内

脳神経外科

脳腫瘍

開頭腫瘍摘出術

手術に際しての決まり事=原則をしっかり行うことで、より安全に手術を遂行することができます。それは、①術前画像の詳細な検討、②術中ナビゲーションや電気生理学的モニタリングを駆使して運動障害や感覚障害を回避すること、③髄液腔・脳溝・safe entry zoneを利用した腫瘍摘出、④病理による予後や再発予測、⑤適切な後療法などです。
こうした手術の原則を押さえた上で、個々の腫瘍の特徴を捉え、さらに手術アプローチを工夫しております。

原発性脳腫瘍の頻度(全国脳腫瘍集計調査報告)

  • 神経膠腫28%:星細胞腫2.8%、退形成性星細胞腫3.8%、多形性膠芽腫11.1%、乏突起膠細胞腫1.8%、上衣腫1.2%、脈絡叢乳頭腫0.3%
  • 髄芽腫1%
  • 胚細胞腫2.3%:ジャーミノーマ2%、奇形腫0.2%、絨毛癌0.1%、卵黄嚢腫瘍0.2%
  • 髄膜腫24% ・下垂体腺腫19.2% ・神経鞘腫10.1% ・頭蓋咽頭腫4% ・悪性リンパ腫3%
    (その他転移性脳腫瘍が18%)

脳腫瘍で多いものを2種類、説明します。

①神経膠腫 (glioma)

神経膠腫は狭義には星状膠細胞由来の腫瘍ですが、広義にはグリア細胞由来の全腫瘍(星状膠細胞腫、稀突起膠細胞腫、脳室上衣細胞由来の腫瘍)を示します。星細胞系腫瘍が75%を占める(星状膠細胞腫、多型性膠芽腫、退形成性星細胞腫)。その他、上衣腫、乏突起膠細胞腫、脈絡乳頭腫があります。

脳腫瘍のWHO分類

神経病理学的なgrading:退形成、核の大小不同、核分裂像の数などにより4段階に分けられます。

  • Grade 1、2 (low grade astrocytoma)は高分化型であり、良性です(ただし、悪性転化が起こりえます)。
  • Grade 3、4 (high grade astrocytoma)は低分化型であり、悪性です。

最善の治療を行った場合の予測生存期間はgrade 1 は8〜10年、grade 2は5年以上、grade 3は2~3年、grade 4は1年以内です。

神経膠腫の亜型

a.びまん性星細胞腫
小児や若年者に多く見られます。
実質型と嚢胞形成型があり、嚢胞形成型では、嚢胞を形成し壁在結節として腫瘍が限局性に見え、MRIで境界鮮明な腫瘍像が1個ないし数個の脳回に限局しています。造影性は乏しく、脳血管撮影では腫瘍血管像が見えず無血管野として腫瘍が存在しています。石灰化は稀です。細胞密度は低く、腫瘍内に正常脳組織があります。一方で、核分裂像はありません。

b.退形成星細胞腫 (anaplastic astrocytoma)
平均年齢46歳であり、中年男性(35〜54歳)に多く見られます。大脳半球が好発部位であり、周囲脳との境界は不鮮明です。MRIでは腫瘍本体が強く造影され、周囲に著明な脳浮腫を伴うことが多いです。病理学的検査では、細胞密度が高く、核分裂像が散見されます。多型性膠芽腫とは異型性がより低く、壊死巣(凝固壊死巣及び偽柵状配列)が見られない点で鑑別します。

c.多形性膠芽腫 (glioblastoma multiforme)
中年45〜64歳男性に多く、高齢者の予後はきわめて悪いです。多中心性は約20%、剖検では5〜10%です。髄液播種は5〜7%(髄液内で増殖あるいは着床、増大するのは稀)です。中枢神経以外への遠隔転移が時おり見られ、肺、リンパ節、骨、肝に転移します。多形性膠芽腫は大小不同で多形性な細胞が密に存在し、巨大及び多核細胞が混在します。偽性柵状構造、毛細血管内皮細胞には多層性増殖が見られ、糸状体係蹄状血管構造を示します。周囲脳組織に星細胞性神経膠症gliosisが見られます。
初発症状は頭痛、けいれん、性格変化が多いです。病理学的に50〜70%が対側大脳半球に浸潤しており、術後放射線治療のみでは、生存平均値は5ケ月程度延びるに過ぎないとされています。また、手術後に、放射線療法+化学療法(Stupp regimen)も併用した場合でも、生存平均値は50〜60週、2年生存率30%以下、5年以上の生存は稀なのが現状です。腫瘍内にDNA修復酵素の一つMGMTが発現していると化学療法が有効でない可能性があり、腫瘍病理標本でMGMTメチル化(MGMTが発現しないかどうか)を調べます。

d.乏突起膠細胞腫 (oligodendroglioma)
腫瘍病理検査でIDH1/2遺伝子変異、1p19q共欠失があるものと定義されています。ゆっくり発育する浸潤性の腫瘍です。病理では、蜂の巣構造あるいは、目玉焼き像が示されます。大脳半球(特に前頭葉)に98%以上が発生し、脳表に突き出るように発育します。これは、全脳腫瘍の1.1%、神経膠腫の4.4%を占めています。
30歳以降の男性に多く、小児ではきわめて稀です。5%前後に退形成性乏突起膠腫がある。初発症状としてはけいれん発作が第1位で57~87%を占めています。前頭葉に腫瘍が存在すれば性格変化(精神情動障害)が10~40%に見られます。画像は、腫瘍内の小さな石灰化が特徴です。脳表に突出する進展像があらわれます。腫瘍内出血も特徴の一つですが、出血巣は小さく、脳卒中症状を示すことはほとんどありません。標準治療は、可及的多量切除に続く放射線局所照射で5年生存率は80~100%、再発までの期間は6~10年との報告が多いです。再発時はテモゾロミドを使用します。

②髄膜腫 (meningioma)

頭の中にできる良性腫瘍の中で最も多くみられます。頭蓋内腫瘍の20%とグリオーマと同じくらいの発生率です。
成人に圧倒的に多く、小児は1.7%、40-59歳に好発(51.1%)します。女性に多い腫瘍です(1.7倍)。
発生母地は、くも膜絨毛で頭がい骨と脳の間の膜にできるため、骨に接してできることが多い腫瘍です。多い順で、傍矢状部(頭の正中線のそばにでき静脈洞にくっついているもの)、大脳鎌(脳の左右の仕切りの大脳鎌にできるもの)(以上併せて24%)、大脳半球穹窿部(18%)、蝶形骨縁(18%)、嗅窩(臭いがわからなくなる)(10%)、鞍結節(10%)、後頭蓋窩(9%、小脳橋角部、小脳テント、斜台、小脳半球部、大孔)、側脳室(2%)の順です。ただし、硬膜に付着部を持たないもの(側脳室、deep sylvian、第三脳室前半部、第四脳室)もまれにあります。
頭部レントゲン像では、骨増殖や骨破壊が見られることがあります。大部分は、外頚動脈硬膜枝より血液供給を受けるため、脳血管撮影では、太陽光線のような外頚動脈系からの放射状の栄養血管像(sun-burst appearance)がみられます。ゆっくり増大した腫瘍により脳表血管が著明に進展され、ちょうど腫瘍辺縁をとりまくように走っている腫瘍血管が見られることがあります。
髄膜腫の周囲に脳浮腫が引き起こされます。症状は、腫瘍圧迫による脳障害(圧迫される場所により症状は異なります)と、てんかん発作(腫瘍周囲脳の長期にわたる圧迫壊死が原因)です。
周囲脳浮腫を伴うような長径2.5cmを超える髄膜腫は手術摘出を考えます。再発腫瘍に対してはガンマナイフやサイバーナイフなどの定位放射線治療が有効です(80%で腫瘍の増殖を抑えられます)。